隣の部屋

気が向いたら何か書きます

「オカルト・ミステリー・アワー」のこと

先月終演した舞台のこと。

 

サムゴーギャットモンテイプ・ソリッド
「オカルト・ミステリー・アワー」
2018年4月25日(水)〜29日(日)

@Gallery & Space しあん

【作・演出】
山並洋貴

古民家に住む一家に起きた、不在の娘をめぐる少しホラーなできごとのお話でした。

私は娘の母であるイツキ サナエさんという女性の役を演じました。

……とここまで書いて、俳優やってるんだし、なんかかっこいい詩的なことを書いてみようと思ったけど、全然そういう人間じゃないので思ったことを全部書いていくブログにします。今決めました。

今回初めてホラーをベースにした作品に出演させてもらって、一番に感じたことは「ホラーって難しいな!」です。いやどんな作品でも常に難しいなと思ってはいるんですけど、なんというか、お客様の反応がよくわからないままずっとやっていくというのがとても難しかった。

舞台ってお客様の反応がダイレクトに伝わる環境でやるものなので、コメディだったら笑いが起きる起きないとか、じっと集中してみせるような真面目な作品でも、あ、今これ伝わってるな、全然だめだな、とか実際に客席に目を向けなくても、なんとなく肌で感じるものだと思っているのですが(お客様の方も言語化できないけどなんか伝わってくるとかこないとかあるはず……と思いたい)恐怖ってあれですね、広い空間で人と共有するのがとてもハードルの高い感情なのですね。今回やってみるまでそのことを知りませんでした。共感しにくい感情、とでも言ったらいいのかしら。感情って元来個人的なものではあるのだけど、そのなかでも恐怖って、ほんとに誰とも共有できないんだな、と。共鳴はするかもしれない。

役者嶋谷自身はめちゃめちゃに怖がりなので、怖いシーンではそのときの役の感情に便乗して集中すれば、ひたすらに怖がることもできたんですけど(できた、というのは私個人の見解ですが)、人がただ怖がっているのって本人が怖がれば怖がるほどみてる相手にはほとんど伝わらないというか……。みせたい役の状態と、感情が、乖離してるとはいわないまでもほぼほぼ一致しなくて、その一致するかしないかのギリギリの線を見つけて持続するのがめちゃくちゃにハードでした。1時間のお芝居でアクションシーンもないのに体力ごっそり持っていかれた。舞台終わりに数人から「痩せた?」って聞かれたんですけど、あれ多少やつれてたように見えたんじゃないかな。というかやつれてるように見えてたらいいな。

私は、役が憑依して魂で演じるタイプの役者でもないし、ものすごく馬力がある役者でもないし、かといって技術があって論理的に筋立てて演じられる技量もまだないので、今のところ集中力だけが武器だと思っているんですけど、集中力だけじゃ、ただ一人で怖がっている人、になっちゃうんですよね。あと、その場にいる人間じゃなくなっちゃう。私の役どころは、舞台となった古民家にずっと住み続けている母、なわけで、自分の感覚としてはその家、空間と一番なじんでいないといけない役、でした。なので、なんで怖いのにそこに居続けるのか、とか、どこまで知っていてどこまで知らないのか、とか、台詞には全く出てこない背景を、舞台に立った瞬間から終わりまで自分含め誰にも違和感なく感じさせる必要があって(伝える、だと強すぎる)そこをニュートラルな状態で保ちつつ演じるのがとてつもなく難しかったです。いやそれをやるのが俳優なんですけど……。

なんというか、うーん、場に、自分を分散させるとでもいうのか、そういうことが必要な役、だったんだと思います。だから、やっていて、お客様の心をつかんでやったぜオラァァァァみたいな感覚を私が得たらたぶん失敗だったと思います。

結果からいえば、そうはならなかったし、お客様からの感想もそういう感じを受けたので、よかった。と思います。あくまで私個人の感覚として。共演した俳優さんたちがとても魅力のある方々で、その中に居られたので安心してそういうことをやらせていただけた。お客様からの感想で、抑えた演技がよかった、といっていただけたのも、たぶんそういうことなんじゃないのかなぁ、と。共演者の方々と、そういうやりかたを汲み取った演出をつけてくださった山並さんには感謝しかないです。

演劇って、誰も見たことのない、けど知っているかもしれない記憶を、その場に居る全員で共有することなんじゃないのかと思いながら私はやっているのですが、そこに、サナエさんが存在していたなぁって、みなさんの記憶の片隅に少しでも残っていたらいいな。怖くてそれどころじゃねーよ! っていうのでも嬉しいです。なにせホラーですから。

うまくまとめようと思ったけどまとまらないので、そんな感じで。

 

ご来場いただいたみなさま、誠にありがとうございました。

またどこかで。