隣の部屋

気が向いたら何か書きます

ヤマシタトモコ「違国日記」のこと

ヤマシタトモコ(敬称略)の「違国日記」②読みましたか? 読みましたね? え? 読んでない。はーそうですかじゃあまず①から読みましょうまだ②だから全然間に合います。電子書籍でも買えるからどこでも買えるね読みましょう。時間がなくても大丈夫です。台詞が少ない漫画なのでさらっと読めます。へたしたら次の電車乗り換えまでの20分くらいで読めます。私は漫画が大好きでどんな漫画もさらっと読める訓練を常にしているのでほんとにそのくらいでどんな漫画も大体一冊読めちゃうんですけど、訓練してなくても読める。ヤマシタトモコの何がすごいってそのさらさら具合なんですよ。さらさら読めちゃうから読んじゃうんだけど、台詞ひとつひとつが、えっなんだ殺しにきているのか? ってくらい切っ先鋭いからさらさら読みながら終わってみたら心臓ズタボロになってるし、台詞なかったらないで余白と絵がすごい、なんか頭の中埋め尽くされる。余白っていうくらいだから全体的に画面白いし線細いし表情そんなキラキラしてないのにね(失礼かもしれませんがこれは褒めです)。なんでか知らないけど世界がヤマシタトモコの世界になるんですよね読み終わると。ずっと続いてしまう。コマを追うごとに漫画は視覚にこうやって表現できるの素晴らしいよねつらいくるしいすきと思う。視覚にくるっていっても、画面の圧が強いとか一コマずつ全部絵になるとか台詞が詩的とかそういうことでもなくて、ずっと読んでると、ああもうそれだそれしかないさっきの、アレ、ですよねそれだ、それです。みたいな。説得力があるっていうんじゃないんだけどそれしかないみたいな、なんていうんですか? 口当たり涼しくて飲みやすいからスイスイ飲んでたら立った瞬間に世界が反転してうわあものすごく酔っているけどもう手遅れ、みたいな日本酒とか、私全然いろいろ諦めているし乾いているんで大丈夫ですって言いながら喋っていたらいつの間にか音もなく泣いてて他人に大丈夫? って聞かれて自分の状態に気付く、みたいなそんな感じです。気付いた時には手遅れ、だけど気持ちいいからどうしよう、みたいな。

ずっと漫画の世界が続いてしまうのなんで? って思って考えてみたら、槙生ちゃんがもう私だからなんですよね。いや、わかってます、私じゃないのはわかっている。それはわかってるんですけど、でも彼女は私なんですよ。だって私たち、友だちもいるし税金も払っているしゴミも分別するし化粧して飲みにもいってめちゃくちゃ楽しかったりもするけど、別にそれと同じくらい死にたいなとか、思い出すと顔が赤くなるくらい恥ずかしいこととか、あるじゃないですかみんな? ない人もいるかもしれない。ない人はそのまま生きていってください。それは素晴らしいことだ。ある側の人はどこかで出会ったらお酒を飲みたい。なんだっけ、そう、槙生ちゃんの話。槙生ちゃんは、自分のお姉さんをものすごく嫌っている。嫌っていることを周囲に隠さないし、その感情はお姉さんが亡くなっても変わらない(この漫画は槙生ちゃんのお姉さん夫婦が亡くなってその娘と暮らし出すところから始まります)。もはや憎んでいると言ってもいいかもしれない。けどね、槙生ちゃんのその感情を見せられて、お姉さんの話が時々出てくるんですけど、他人から見たら、別にそこまで嫌わなくてもええやん、っていう、お姉さん別に悪人じゃないんですよね。今はまだ槙生ちゃんからしか話聞いてない状態なのでわかんないんですけど、たぶんお姉さんはちょっと物言いのキツい普通の人なんじゃないかなと思う。

けどそんなことはどうでもよくて、どうでもいいっていうのはつまり、私たちは自分っていうあまりにも偏ったフィルターを通してしか他人と関われないし、自分の中の他人としか付き合えないから、他人が本当はどういう人間なのか(だったか)というのはね、本当は本当にどうでもいい話で、ただ、自分がどう思ったか、でしかその人について語れないと私が思うからどうでもいいということなんですけど。だって好きとか嫌いとかの感情ってもう、どうしようもなくないですか? いくら他人に「あの人は悪い人じゃないよ」と言われても、嫌いなもんはもう嫌いじゃないですか。もちろん大人だから、出すべきところでないときに感情は抑えたりするけれども、自分が生きていく上で生まれた感情をなきものにしてまで尊重しなければいけないものやことってそんなになくないですか? いや私が何かしら欠けてる人間だってのはわかっている、わかっているけれどもこれは私の人生なので、私は私が感じるようにしか生きられないから。それが否定されるのであれば私は私として生きている意味がわからないっていうか。槙生ちゃんは、自分に対して肯定も否定もしていなくて、そこがものすごく好き。生まれてしまっている感情やそれに付随する面倒なあれこれを肯定も否定もしないって難しいですよ。あるがままを受け入れて生きられますか? 私は生きられないところでもがいています。あなたはどうですか。

 

永遠に続けられそうな気がするけどとりあえずおわり。

「違国日記」読んでね。